医療法人鉄蕉会 亀田総合病院
「がん登録」のスクリーニング時間を約7割削減。将来の労働力不足を見据え、亀田総合病院が挑む『ユビー生成AI』の試行検証
公開日:2026/7/6
安房医療圏の基幹病院・亀田総合病院が「先行投資」として進める『ユビー生成AI』の試行検証。特にがん登録のスクリーニング業務では時間を約7割削減する成果が確認されました。情報管理本部 本部長の小川理氏と、医療情報管理室 室長の佐川智紀氏にお話を伺いました。
千葉県鴨川市に位置し、安房医療圏の基幹病院として高度な医療を提供する医療法人鉄蕉会亀田総合病院。業務の質と継続性を見据えた「先行投資」として、同院は現在『ユビー生成AI』の試行検証を進めています。特に、膨大な診療記録の確認を要する「がん登録」のスクリーニング業務では、大幅な時間短縮という成果が確認されました。今回は、同院の情報管理本部 本部長である小川理氏と、医療情報管理室 室長の佐川智紀氏に、検証の背景と現場の手応えについてお話を伺いました。
- ●業務の質と継続性を見据え、マンパワーが限られた状況でも現在の業務水準を維持するためのデジタル技術活用を模索していた。
- ●「医療を支える人材の確保が難しくなる未来が徐々にやってくる」という認識のもと、デジタル技術の限界と可能性を検証する先行投資のスタンスで試行を開始した。
- ●現場のニーズに合わせてプロンプトを自由にカスタマイズできる柔軟性を重視し、特定の診療科に縛られない『ユビー生成AI』の機能を評価した。
- ●実証実験の対象として、まとまった臨床研究用データセットを転用して種々の出力を検証し、「がん登録」業務への高い適合性を見出した。
- ●IT基盤を整える情報管理本部と、実務の専門知識を持つ医療情報管理室が連携し、部門横断的にAIの回答を精査する検証プロセスを構築した。
- ●「がん登録」の対象外症例を判断する時間が約7割削減され、業務負荷の劇的な軽減を確認した。
- ●カルテ内に散在する病理レポートや治療履歴をAIが瞬時に一覧化し、電子カルテの深い階層を探しに行く情報収集の手間が飛躍的に解消された。
- ●外来診療での音声認識活用などを通じ、AIが実務を支える確かな手応えを得て、担当者の心理的負荷が軽減される兆しを確認した。
ユビー生成AIの検証の背景と目的
人口減少を見据えた「業務維持」への挑戦と、定型ツールの限界
──安房医療圏の基幹病院として、将来の危機を見据えた「先行投資」として今回の検証を位置づけていらっしゃいますね。地域課題と、従来のAIツールで感じていた限界についてお聞かせください。
私たちの安房医療圏は現在13万人ほどの人口ですが、千葉県内でも医療過疎化が進んでいる地域も増えています。当院は東京の京橋にサテライトクリニックを持つなど広域から患者さまを迎えていますが、事務系職員の採用は地元がメインです。全国的にみても、将来的に労働力が減少していくのは避けられない現実といえます。 現時点でマンパワーが足りなくて困っているわけではないのですが、そうした未来が徐々に近づいているなかで、人が減っても今の業務をいかに維持していくか、そのための「準備」として、デジタル技術の可能性を探る必要がありました。 実は以前、他のAI機能を使ってみたことがありました。ただ、我々の要求水準が高かったためか満足のいく出力が得られず、本格的な活用には至りませんでした。医療現場のニーズは多岐にわたりますから、あらかじめ決められた形しか出力できないツールでは、実務で本格的に活用するには限界がありましたね。そこで、現場主導で柔軟な活用方法を構築できる『ユビー生成AI』の試用を決めました。特に地方においては、働き手人口が減少する中でどのように今の業務を維持していくかという視点において、AIの試験的な導入は新たな可能性を見つける手がかりにもなると考えました。(小川 理 氏)
ユビー生成AIの検証経緯
「実務活用の糸口」へ変えた転換点

──検証開始当初は、電子カルテの仕様による「一括のコピー&ペーストが不可」という大きな壁に直面されたと伺いました。そのハードルをどう乗り越え、結果として「がん登録」という具体的な活用先にたどり着いたのでしょうか。
ご指摘の通り、当院の電子カルテはまとまった一定期間の診療記録を一括でコピー&ペーストできない仕様でして、当初は入院中の記録を何度も何度もコピペする必要がありました。 これでは手間がかかりすぎて、「データ連携なしでは実務で使いにくい」と率直なフィードバックをUbie社に伝えていました。試しに使ってみたものの、運用の柔軟性の面でハードルを感じていた時期もありましたね。 電子カルテとシームレスにつながっていない状態でユビー生成AIを活用する方法を模索していましたが、別のプロジェクトで作成していた臨床研究用データセットを活用できることに気づき、それを用いたところ「がん登録」への高い適合性を見出したのです。ユビー生成AIにこのデータは院内がん登録に利用できるか質問し、そのためのプロンプトも作ってもらいました。「がん登録を改善しよう」という課題解決を前提として始めたわけではなく、実証実験の対象としてデータが揃っていたのが「がん登録」という業務だったというだけなのです。 何回かAIとやり取りして出力されたものを専門家である佐川に見せたところ「これなら現場でも使えるかもしれない」という意見をもらいました。そこから一気に検証が本格化しました。(小川 理 氏)
──専門家の立場から、最初にサンプルデータを確認された際の印象はいかがでしたか。
小川から提示されたサンプルデータを確認したところ、自分たちが求める情報が非常に綺麗に一覧化されていました。「がん登録業務」のために特別な開発を依頼したわけではなく、自由度の高いプロンプト機能を使って試行錯誤する中で、偶然にも高い適合性を見出したというのが実態です。実務に即したデータで有用性が見えたことで、本格的な検証へと舵を切ることができました。(佐川 智紀 氏)
実務検証の手応え
「がん登録業務」における手応えと、スクリーニング時間の約7割削減と心理的負荷の軽減

──実際のがん登録業務において、「7割削減」という顕著な数値成果が出ています。具体的な手応えをお聞かせください。
これまでのスクリーニング工程では、登録対象外であることを判断するためだけにカルテを読み込む必要がありましたが、AIが情報をカルテから抽出するため、その時間が短縮されました。登録不要であることを確定させる作業が、実は実務上の大きな負担だったのです。 「ユビー生成AI」を利用した検証では、1件あたりにかかる作業時間が約7割程度削減される結果となりました。AIが病理レポートの内容や化学療法の履歴、手術日、さらには薬剤の種類などを瞬時に表形式で抽出してくれるのには驚きました。通常、情報はカルテの各所に散在しており、それらを自動で一覧化してくれるので、深い階層まで探しに行く手間が省けます。 すべての症例をAIだけで完結させることはまだ難しいですが、少なくとも対象外症例かどうかを確認するために必要な情報を短時間で把握できるようになったことで、担当者の心理的なプレッシャーも軽減されていると思います。(佐川 智紀 氏)

──外来診療の現場でも活用が広がっているとのことですが、具体的にどのようなお使い方をされていますか。
現在では、私の外来診療でも記録作成の多くをAIに頼っています。マイクをつないで音声認識機能を使い、いくつかのプロンプトを使い分けることでスムーズに運用できています。紹介状やオンライン資格確認の処方情報などのファイルのファイル認識機能も利用し、音声での問診内容にファイル認識した情報を組み合わせることで、最小限のクリック数で精度の高い診療録が作成できます。業務が増えていくなかでの維持に向けた、確かな兆しを感じているところです。(小川 理 氏)
未来の期待とメッセージ
AIを「自律的なパートナー」とするために必要な教育と、その先の臨床・研究への展望

──AI活用が当たり前になる未来に向けて、スタッフの教育やリスク管理はどうあるべきか。また、この検証が医療の質そのものにどう寄与していくのか、展望をお聞かせください。
AIを仕事に活用すればすべてが解決するわけではありません。特に重要なのは、受け手側がハルシネーション(AIの嘘)を見抜けるだけの知識を持っていることです。AIに頼り切るのではなく、自らの知識を磨いた上で使いこなす教育が、今後の病院運営には不可欠になるでしょう。「AIがこう言いました」と根拠なく口にしてしまうような状況は避けなければなりません。 今後は、単なるチャットツールを超え、AIが不明点を自律的に特定し、スタッフに代わって医師へ問いかけ、回答を収集するような「エージェンティックAI(Agentic AI)」という仕組みの実現に、大きな期待を寄せています。AIが受動的なインターフェースではなく、目的達成のために自律的に動くパートナーとなることで、医師も多忙な中でお互いの業務負荷が飛躍的に軽減されるはずです。(小川 理 氏)
──今回の「がん登録」検証結果が、医療界全体に与える影響についてどうお考えですか。
がん登録は全国の多くの病院で実施されている共通の課題です。そしてAIを活用したがん登録は、全国的に見ても先進的な取り組みの一つでもあります。今回の検証結果がモデルとなり、他の病院にもがん登録におけるAI活用が広がることを期待しています。 単に事務効率化にとどまらず、生成AIを導入し正確なデータが蓄積されることで、がんの再発予測や治療効果のシミュレーション、あるいは臨床研究のデータベース構築が格段に容易になります。精度の高いデータベースが構築しやすくなることは、病院全体の医療の質の底上げに直結すると考えています。(佐川 智紀 氏)
──最後に、今後のユビー生成AI活用についての目標をお聞かせください。
構造化データがAIによって自動的に作られれば、臨床研究のデータベース構築もスムーズになります。これまで医師がカルテを一つずつ開いて自分のパソコンにデータを打ち込んでいたようなアナログな手間が不要になり、治療改善のためのシミュレーションなども可能になるでしょう。 将来的には、「ユビー生成AI」の画面内だけで登録業務の80〜90%が完結する姿を目指したいと考えています。人口減少地域という現実があるなかで、働き手人口が減っても今の業務を維持していくために、AIを人の代わりに活用していく。そんな未来への備えが、今回の検証を通じて具体的に動き出しています。(小川 理 氏)
お話を伺ったのは…
- 小川 理 氏情報管理本部 本部長 / 糖尿病内分泌内科 シニア・ダイアビーティス・アドバイザー / CSR推進室顧問
- 佐川 智紀 氏情報管理本部 医療情報管理室室長(がん登録担当)

病院紹介
医療法人鉄蕉会 亀田総合病院

亀田総合病院は、千葉県南部の安房医療圏において三次救急を担う基幹病院。「Local & Global」を合言葉に、地域に根ざした医療を提供するとともに、医療圏外や都市部からも多くの患者さまを受け入れています。目の前に太平洋が広がる療養環境のもと、高度急性期医療をはじめとする幅広い医療を提供。DXやAIの活用による業務の質と継続性の向上にも取り組んでいます。
- 所在地
- 千葉県鴨川市東町929番地
- 設立
- 1942年(昭和17年)
- 代表者
- 病院長 亀田俊明
- 病床数
- 一般865床 / 精神42床
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