ユビー生成AIインタビュー200〜499床北日本

社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院

「これがない世界は考えられない」――若手を議事録から解放し、現場にゆとりを生み出す"当たり前"の医療DX<前編>

公開日:2026/8/18

「これがない世界は考えられない」――若手を議事録から解放し、現場にゆとりを生み出す"当たり前"の医療DX<前編>

石川県七尾市の恵寿総合病院。スカウトを受けて着任した看護部長・阪口智恵氏が、生成AIやICTを活用し、看護師が「本来やりたかった看護」に注力できる環境づくりに挑戦。議事録作成から若手看護師を解放し、会議での発言のしやすさにつながった変化と、"当たり前"に浸透した医療DXの日常について伺いました。

石川県七尾市に位置する社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院。多職種の情報共有基盤を強みに、「日本一働きやすい病院アワード」(※)への挑戦をきっかけとした働き方改革を進めてきました。スカウトを受けて着任した看護部長・阪口智恵氏は、生成AIやICTを活用し、看護師が「本来やりたかった看護」により力を注げる環境づくりに取り組んでいます。前編では、着任後に進んだ意識の変化と、会議の議事録作成をAIに任せることで若手看護師も議論に参加しやすくなった変化、そしてすでに"当たり前"として現場に浸透したDXの日常について伺いました。

※日本一働きやすい病院アワードとは ナースまつり実行委員会が主催し、マインヘルスケア株式会社が事務局を務める企画。全国の医療機関が「働きやすく、やりがいをもって働ける職場」への取り組みをプレゼンし、投票により大賞を決定する。恵寿総合病院は2024年に大賞を受賞。https://nurse-matsuri.com/hospital-award

導入前の課題
  • 看護師の「数」で勝負する人海戦術ではなく、ICTやAIを活用し、看護師にしかできない業務に専念できる環境を求めていた
  • 多職種情報共有基盤は整っており、その価値をさらに引き出していく余地があった
  • 会議やカンファレンスの議事録作成は主に若手看護師が担っており、議論そのものに参加しづらいという負担があった
導入の決め手
  • 「日本一働きやすい病院アワード」への挑戦を機に、看護職員が自分たちの環境の価値に気づき、主体的に活用するマインドへの転換を図った
  • 会議や地域連携の担当者会議で音声入力による議事録作成AIを活用し、記録担当者の負担を解放した
  • AIによるサマリー作成については、病棟ごとの入院期間や患者の経過の複雑さに応じて、AI活用の効果に差があることを踏まえながら運用を進めた
導入後の結果
  • 議事録作成の負担から解放された若手看護師が、会議で自分の意見を発言できるようになった
  • ベッドサイド情報端末による情報の一元管理で必要な情報をその場で確認でき、多職種がスムーズに対応できるようになった
  • AIやICTがある状態が"当たり前"になり、スタッフが「ない状態は考えられない」と語るほど現場に浸透した

看護師が「本当にやりたかった看護」に専念できる環境を求めて

人海戦術からの脱却。ICTとAIで実現する本質的なケアへの挑戦

──理事長補佐・消化器内科医の神野正隆先生から声をかけられ、神奈川の病院から恵寿総合病院へいらっしゃった際、「やりたかったことができそうだ」とおっしゃっていました。具体的にどのようなことをやりたいと思われていたのですか。

私が実現したかったのは、看護師が患者さんと向き合い、看護師にしかできないことに、もっと時間を使える環境です。

そのためには、看護師の「数」で業務を支える人海戦術だけではなく、ICTやAIを活用して、効率化できる業務はできるだけ仕組みに任せていく必要があると考えていました。

そうすることで、患者さんへの指導や意思決定支援、退院後の生活を見据えた支援など、『患者さんのお話をじっくり伺い、その方がどうしたいのかを一緒に考える時間を増やせる』そうした看護を実現したいと思っていました。

整った基盤を、真に活かすために。職員自らが価値に気づく「アワードへの挑戦」

多職種情報共有基盤のポテンシャルを引き出した、意識改革のきっかけ

──お声がけを受けた時点で「ICTが非常に進んでいる病院だ」という情報はすでにお持ちだったと思いますが、実際に入職された時の第一印象はいかがでしたか。

多職種との情報共有の基盤がしっかりできているので、ものすごく便利だなというのが第一印象でした。「こんなこともできるんだ」という驚きと嬉しさがありました。

当時は、以前一緒に働いていたスタッフにも、この環境をぜひ体験してほしいと思うほどでした。

どんなに良い仕組みが整っていても、最初から身近にあるものは「当たり前」になり、その価値に気づきにくいものです。使っている人たち自身が価値を再発見し、「こんな使い方をしよう、あんな使い方をしよう」と主体的に活用することで、さらに可能性を広げられると思いました。 着任当時は、すでにある良い仕組みを、みんなでもっと活かせる余地があると感じました。

──そこからどのような取り組みを始められたのでしょうか。

きっかけになったのは「日本一働きやすい病院アワード」です。院内でこれほど多職種と情報共有できる基盤が整っていて、使い方次第でもっと多職種連携や自分たちのやりたいことができるのだ、ということにまず職員に気づいてもらいたいと考えたのが一番でした。

実は、私の着任前に理事長補佐から「こういうアワードがあるから、ぜひ看護部でも出てみたら」という推薦メールがCCで私にも届いていたのです。着任後に看護部長として「これどうしますか、出ますか」と聞かれた時には募集締め切りのギリギリでした。せっかくだから出ようと決めました。

最初の年は、まず自分を知ってもらうことも大切でしたが、何より「他の病院にはない素晴らしい環境がすでに揃っていて、自分たちがやりたいことを実現できる環境にあるのだ」ということを職員に気づいてもらうことが先決だと思い、そこに注力しました。外部から来た人間だからこそ、その良さに気づけたのだと思います。

若手を議事録作成から解放する。AIがもたらした「フラットな議論」

記録に追われた若手看護師が、議論に集中できる環境へ

──地域連携や、病院の外の機関との関わりの中でのAI活用状況はいかがですか。

地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟では、退院支援に向けて、ケアマネジャーなど地域の関係者を交えた担当者会議を行う機会が多くあります。そうした会議には、院外の方がオンラインや対面で参加することもあり、音声入力やAIを活用して文字起こしや議事録を作成しています。

これによって大きく変わったのは、議事録の作成担当者も、記録に追われることなく議論そのものに参加できるようになったことです。 AIに議事録作成を任せることで、担当者を含めた全員が議論に集中できるようになりました。

記録を担当していた人が、実は重要な気づきやアイデアを持っていることもあります。そうした声が記録に追われることで埋もれず、議論の中で活かされるようになったことは、非常に大きい変化だと思います。

──他院でも同様の声をよく聞きます。誰が議事録をとるかといった役割分担は、どのように決められているのですか。

会議やカンファレンスの議事録は、経験年数の浅いスタッフが担当していることが多いのではないでしょうか。多職種会議では、事務職員が記録を担当するなど、それぞれの組織で慣例的な役割分担があると思います。

AIに入力を任せることで、記録担当者も含めて全員が議論に参加しやすくなります。書く負担が減るだけでなく、若手を含め、一人ひとりの意見を聞きやすくなりました。記録作業に集中していた人も、考えを言葉にして議論に参加することができる。この変化はとても大きいと思います。

病棟ごとの"リアルな凹凸"、そしてすでに浸透した「DXネイティブ」な日常

複雑な経過をたどる患者ほど効果を発揮するAI活用と、"当たり前"になった効率化

──AIの活用が進んでいる病棟など、偏りや差はありますか。

AI活用の効果は、病棟によって一律というより、患者さんの入院期間や経過の複雑さによって違いがあると感じています。

例えば、入院期間が長く複数の病棟を移動していたり、経過が複雑な患者さんの場合は、これまでの記録を整理・要約する負担が大きいため、AIによるサマリー作成が特に有効です。

一方、入院期間が短く、経過が比較的シンプルな患者さんの場合は、AIを使わなくても短時間で記録ができます。そのため、患者さんの状況に応じてAIを使い分けることが大切だと考えています。

──AIの活用推進によって、スタッフの働き方にさらなる改善は見られますか。

業務は確実に変わってきています。サマリー作成に関しては、実証実験でも1/3から半分ほどの時間短縮という効果が出ています。もちろん、看護記録全体を見ればまだ改善の余地はありますが、調べ物のスピードアップや議事録作成の負担軽減といった日々の積み重ねによって、自分たち自身のために使える時間が生まれています。それが、結果として患者さんと向き合える時間の創出につながっているのだと思います。

──それはスタッフの「働きがい」の向上にも繋がっているのでしょうか。

働きがいの向上という点については、まだ改善の余地はあると感じています。

現場は日々忙しく、少しずつの改善は実感しにくいものです。

それでも、「もしAIやICTがない状態に戻ったらどう?」と聞けば、「今の環境がいい」と感じるスタッフは多いと思います。それだけ、すでに日常の中に自然に浸透し、仕事を支える基盤になっているのだと感じます。

実際、私が着任した当初、ベッドサイドで患者さんの移動範囲や検査・食事の情報がすぐに確認できる端末があり、私は「素晴らしいシステムだ」と感動しました。しかし、スタッフに聞くと「そうですか?」という反応でした。当たり前になりすぎているのです。

以前の勤務先ではそうした端末がなかったので、患者さんから「トイレに行きたい」と言われたら、一度安静度を確認するためにカルテのある場所に戻るか、担当看護師を探す必要がありました。 その確認だけで一苦労でしたが、当院では端末で即座に確認できるため、多職種のスタッフもその場ですぐに対応できます。こうした確認のための行き来が減ることも、大幅な業務効率化につながっています。

また、検査や食事制限の説明についても、以前は看護師が患者さんに複数の説明用紙をお渡ししていましたが、システムで一元管理されているため現在は説明もよりスムーズになっています。当たり前になっていて気づかないほど、すでに便利になっているのです。

書類確認という「次に変えたい業務」、その先に見据える未来

医療安全を守るための確認作業と、電子サイン・AI活用への期待

──現場の看護師の皆さんが、今一番負担に感じている業務は何でしょうか。

やはり「記録」と「書類の確認」です。特に書類に関しては、患者さんの権利を守るために、多くの同意書や確認書類があります。これらを1枚ずつ、患者さんの名前に誤りがないか、必要な記載やチェックに漏れがないかを確認する必要があります。患者さんにも多くの書類にサインしていただく必要がありますが、医療安全や患者さんの権利を守るために必要な手続きです。

当院では、患者さんにサインしていただくと直接電子カルテに取り込まれる仕組みを進めています。さらに「必要書類がすべて揃っているか」「記載やサインに抜け漏れがないか」「他の患者さんの書類が混在していないか」といった確認をAIが支援してくれたら、看護師の負担を大きく軽減できると思います。こうした確認作業は、AIが力を発揮できる領域の一つではないかと期待しています。

多職種が連携して作成する「入院診療計画書」についても、AIを活用できるのではないかと考えています。現在は、各職種がそれぞれカルテを開き、一つの書類を完成させていく必要があります。多職種で情報を共有しながら一つの書類を作成することは大切ですが、そのための入力や確認には一定の時間がかかります。最終的に、書類が患者さんにお渡しできる状態になっているかを確認する役割を看護師が担うことが多いため、この確認作業をAIが支援してくれれば、業務負担の軽減につながると考えています。

お話を伺ったのは…

  • 阪口 智恵 氏看護部長・医療経営学修士(h-MBA)
阪口 智恵 氏(看護部長)

病院紹介

社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院

社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院

石川県七尾市に位置する386床の急性期病院。多職種による情報共有基盤を強みに、生成AIやICTを活用した働き方改革を推進している。

所在地
〒926-8605 石川県七尾市富岡町94番地
設立
1934年9月(神野病院として創立)
代表者
院長 鎌田 徹
病床数
386床
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